日本核磁気共鳴学会

第11期会長のご挨拶

日本核磁気共鳴学会会員の皆様へ

NMRは、最初の実験からこの約75年間に科学技術の発展とともに、測定法や応用実験法が開発され、学術だけでなく産業上の課題にも大きな影響を与えるようなりました。エレクトロニクス、コンピュータ、磁石、さらに同位体標識など試料調製法の発展を取り入れて、NMRは感度、分解能が向上して、物理、化学、生物学、医学などの領域で重要な役割を果たしています。これは、最初のNMR直接観測、効率的なフーリエ変換NMR、イメージング、タンパク質の構造決定などでのノーベル賞受賞にも表れています。このようなNMRの基礎と応用の発展は現在も続いています。

このような中で日本核磁気共鳴学会は、NMRの基礎と応用研究者を中心としてその利用者やグループ、さらに装置メーカーや試料調製、解析サービスなどに関する民間企業も含んだコミュニティとして役割があります。学会の中心的な活動であるNMR討論会の主催に関連した多様な会員の交流を充実させて、NMRの継続的な発展と普及に貢献してきました。具体的には、2022年で第61回になるNMR討論会での最新の研究成果の発表・交流に加えて、若手の顕彰など人材育成、チュートリアルや学会誌出版などを行ってきています。

学会の一つの役割は、日本のNMRコミュニティとして国際協力することです。NMR討論会では海外の先進的な研究者を招くなど国際交流を進めています。日本からも優れた研究が海外の学会へ招待されるなど、独自な寄与が多くあります。日本のコミュニティの寄与やその規模に応じて、海外からは国際会議の日本開催を期待され、またその開催は国内のコミュニティへも貢献します。代表的な会議は国際磁気共鳴会議ISMARや生体系のICMRBS、アジアオセアニア地区のAPNMRです。招致活動から開催まで6年程度の活動を要して、参加者も1000名規模になり経費も多額で組織的な対応が望まれます。最近ではICMRBS2018、ISMAR-APNMR2021などで、学会が重要な役割を果たしています。

NMR学会は社会や科学技術の変化にも対応することが求められています。コロナ禍の中では2021年のISMAR合同会議ではオンラインで開催しました。2020年からは、COVID-19に対する安全性を考慮して開催しています。今後のDX技術の発展によっては、対面だけでなくバーチャルな開催が会員にとって有益になるかもしれません。容易に参加できるので、出席者数の増加や国際交流には有効でしょう。すでに理事会はオンラインで開催して交通費支出は最小になりました。

今後、科学技術の発展でMNRが関与する領域の融合や発展に応じて学会も変化するでしょう。例えば、実験法の発展でDNP-NMRなど電子スピンと核スピンの親和性が増し、2019年と2021年では電子スピンサイエンス学会と並立や合同開催しました。また、NMRの超高感度化や検出法の発展で、その実験や応用法が大きく変わるかもしれません。生体系分子構造解析ではX線回折法や電子顕微鏡の最近の発展がNMR応用や研究者に大きな影響を与えています。

このような変化のある中で、学会は日本におけるNMRのコミュニティとして柔軟に会員の交流を通じてNMR分野の発展に貢献できればと思います。

2022年5月

日本核磁気共鳴学会
会長 藤原 敏道